PRPのエビデンスと適応:誰に、いつ使うべきか?
〜Dr.Ikko & メデ子の膝再生医療マスター講座〜
Medeco 編集部

Dr Ikko
膝関節専門の指導医。再生医療は「魔法」ではなく「科学」であると説く。適応外の患者にはきっぱりと「効きません」と伝える誠実さを持つ。

メデ子 先生
整形外科専攻医。外来で「痛いからとにかく何か注射して!」と頼まれることが多く、誰にPRPを勧めるべきか迷走中。
「Grade IV」の患者さんにPRPは効くのか?
(外来カンファレンスにて)
Ikko先生、相談です。
70代女性、膝OA(変形性膝関節症)の患者さんです。
70代女性、膝OA(変形性膝関節症)の患者さんです。

メデ子
レントゲンでは関節裂隙が完全に消失していて、骨棘もバンバン出ているK-L分類 Grade IV(末期)の方なんですが、「手術は怖いから、話題の再生医療をやりたい」と強く希望されています。
PRP、やってもいいでしょうか?
PRP、やってもいいでしょうか?

メデ子

Dr Ikko
メデ子先生、結論から言うと、その方へのPRP投与は慎重であるべき、あるいは推奨しない可能性が高いね。
えっ、でも再生医療って、すり減った軟骨を治すためのものじゃないんですか?

メデ子

Dr Ikko
前回も言った通り、PRPは「抗炎症」と「環境改善」が主役だ。 Grade IVのようにBone-on-Bone(骨と骨がぶつかっている状態)で、物理的な変形やアライメント異常(高度なO脚など)が完成してしまっている場合、いくら注射で炎症を抑えても、歩くたびに物理的な衝突が起きるから痛みは取れにくいんだ。
なるほど……。物理的な「形」の問題は、注射液では治せないですもんね。

メデ子

Dr Ikko
そう。多くの臨床データや論文を見ても、PRPが良い適応となるのは以下の層だ。
PRPが良い適応となる層
- 初期~進行期(K-L Grade I, II, III)
- ヒアルロン酸注射などの保存療法で効果が不十分な場合

Dr Ikko
逆に、Grade IV(末期)の患者さんに高い費用(自由診療)を払わせて行っても、「思ったより効かなかった」という結果になりやすい。この「期待値のコントロール」と「患者選択(Patient Selection)」こそが、我々専門医の腕の見せ所なんだ。
「70%」という数字のリアル
じゃあ、Grade IIやIIIの人なら、打てば必ず治るんですか?

メデ子

Dr Ikko
そこも大事なポイントだ。PRP治療の臨床データでは、奏功率はおよそ「70%前後」と報告されていることが多い。
70%……。高いような、意外とそうでもないような。

メデ子

Dr Ikko
正直な数字だよね。つまり、「10人中3人には効果が実感できない可能性がある」ということだ。 これを事前にしっかり説明(インフォームド・コンセント)できるかが重要だ。

Dr Ikko
「絶対に治ります」なんて言ったら詐欺になる。「7割の方には痛みの軽減や生活の質の向上が見られますが、効かない可能性もゼロではありません」と、誠実に伝える姿勢が必要だよ。
スポーツ外傷への応用:膝以外もいける?
先生、昨日のスポーツ外来で、バスケ部の大学生が「ジャンパー膝(膝蓋腱炎)」で来ました。半年休んでも痛みが取れないらしいんですが、こういう若い子にもPRPは使えますか?

メデ子

Dr Ikko
おっ、いいところに目をつけたね。PRPは、OAだけでなくスポーツ外傷・障害にも良い適応だ。多くの専門施設で、以下のような疾患に対して行われているよ。
PRPが行われる疾患
- 靱帯損傷(MCL損傷など)
- 腱付着部炎(膝蓋腱炎、アキレス腱炎など)
- 肉離れ ・半月板損傷(血流のあるRed-Red zoneなど)
慢性化した腱炎って、難治性ですよね。そこに成長因子を入れるわけですか。

メデ子

Dr Ikko
そう。慢性化した組織は治癒プロセスが止まってしまっていることが多い。そこに成長因子を注入して、停滞していた修復スイッチを再びONにするイメージだね。 プロアスリートが早期復帰のために使うことも多いけれど、一般のスポーツ愛好家にとっても有力な選択肢になるよ。
実際の投与手技と「3週間のタイムラグ」
実際にPRP治療を行うとしたら、手順はどうなるんですか? 外来で採血して、その場ですぐ注射?

メデ子

Dr Ikko
院内で調製する場合はそうだが手間がかかることや設備投資がネックになる。最近では専門の加工施設に委託するケースが多いからこのタイムラインを覚えておきなさい。
PRP治療を行う
タイムライン
タイムライン
初回受診・採血: まず適応を判断する。OKなら採血を行う。採血量は約49ml程度が一般的。
加工期間(約2~3週間): 血液を特定の加工施設(CPC等)に送り、PRP調整、無菌試験、凍結する。この間、患者さんは待機となる。
再受診・注射: 施設側で融解し出来上がったPRPを受け取り関節内や患部に注射する。
へぇー! 採血から注射まで3~4週間空くんですね。「明日試合だから今日打ってくれ!」というのは無理なんですね。

メデ子

Dr Ikko
そういうこと。だから計画的な治療が必要だ。 注射自体は関節内注射の手技と同じだが、ターゲットが腱炎や靭帯ならピンポイントに打つ技術も求められるね。
打った後はどうする? 術後管理のポイント
注射した後は、すぐに運動していいんですか?

メデ子

Dr Ikko
基本的には日常生活は直後からOKだ。入院もいらない。 ただし、以下の点には注意が必要だ。
注射後の注意点
なるほど。痛み止め(NSAIDs)はどうしますか? 炎症を抑えすぎると効果が落ちる説もありますが……。

メデ子

Dr Ikko
鋭いね。一般論としては、PRPの効果(成長因子による炎症抑制と修復)を邪魔しないよう、強い抗炎症薬の連用は避ける指導をすることが多い。 ただ、痛みが強すぎる時は我慢させずにクーリングや頓服を使うなど、患者さんのQOLに合わせて柔軟に対応することも大切だ。
まとめと次回予告
今日のまとめです!

メデ子
まとめ
- 適応:ベストはOAのGrade I~III。Grade IV(末期)は効きにくい
- スポーツ:難治性の腱炎や靭帯損傷にも効果あり
- 有効率:約70%前後。100%ではないことを正直に伝える
- 手順:PRPの場合、採血から注射まで約3~4週間の準備期間が必要

Dr Ikko
完璧だね、メデ子先生。 適応を正しく見極めることができれば、患者さんにとって手術を回避したり、競技復帰を早めたりする強力な武器になる。

Dr Ikko
さて、次回Vol.3では、PRPからさらに一歩進んだ『幹細胞治療』について話そう。 『PRPと何が違うの?』『脂肪を取るってどういうこと?』という疑問に答えていくよ。
(vol.3へ続く)