手術との棲み分けと「攻めのリハビリ」:再生医療を成功に導く最後のピース
〜Dr.Ikko & メデ子の膝再生医療マスター講座〜
Medeco 編集部

Dr Ikko
膝関節専門の指導医。メスを握る技術だけでなく、術前術後のバイオメカニクスやリハビリにも精通している。「注射して終わり」の医者を最も嫌う。

メデ子 先生
整形外科専攻医。これまでの連載で再生医療の知識をバッチリ身につけ、いよいよ臨床現場での実践に向けて最後の総仕上げに入る。
「再生医療か、手術か」という二元論からの脱却
(医局のカンファレンスルームにて)
Ikko先生、全6回のレクチャーもいよいよ最終回ですね! これで私も再生医療マスターです。これからは『手術を避けるための究極の武器』として、患者さんにPRPや幹細胞を勧めていきます!

メデ子

Dr Ikko
メデ子先生、その意気込みは素晴らしいが、最後に一番大きな勘違いを正しておこうか。我々整形外科医は、決して『再生医療 vs 手術』という対立構造で考えてはいけないんだ。
えっ? でも、患者さんはみんな『手術をしたくないから』再生医療を希望してくるんじゃないですか?

メデ子

Dr Ikko
患者さんの心理としてはそうだろうね。でも、医学的には別問題だ。 これまで学んできた通り、再生医療(PRPや幹細胞)が得意とするのは『炎症を抑え、関節内の生物学的な環境を改善すること』だ。 一方で、TKA(人工膝関節置換術)やHTO(高位脛骨骨切り術)といった手術が得意とするのは『物理的な変形やアライメント異常、不安定性を力学的に矯正すること』だ。
あ……! 役割が全然違うんですね。

メデ子

Dr Ikko
その通り。だから、高度なO脚で内側にばかり体重がかかっている末期OAの患者さんに、いくら高価な幹細胞を注射しても、歩くたびに軟骨がすり潰される『力学的なストレス』は解決しない。そういう症例には、手術を勧めるのが真の専門医の姿だよ。
「合わせ技」のポテンシャル:手術 + 再生医療
役割が違うなら、一緒にやっちゃえば最強なんじゃないですか? 例えば、O脚を骨切り(HTO)で真っ直ぐにしてから、関節の中に幹細胞を撒くとか……。

メデ子

Dr Ikko
素晴らしい! まさにそれが、現在世界中のトップランナーたちが注目している『ハイブリッド治療(併用療法)』だ。
おおっ! 私、良いこと言いましたね!

メデ子

Dr Ikko
HTOで下肢アライメントを矯正し、荷重ストレスを外側に逃がしてやる。そして、すり減ってボロボロになった内側の関節軟骨に対して、PRPや幹細胞を投与して組織修復を強力に後押しする。 これは『力学的環境の改善(手術)』と『生物学的環境の改善(再生医療)』の理想的な組み合わせと言えるね。
半月板縫合術の時にも応用できそうですね!

メデ子

Dr Ikko
その通りだ。血流が乏しくて治りにくい半月板の白赤部(White-Red zone)や白白部(White-White zone)の断裂に対して、縫合と同時にPRPを注入して治癒を促進させる試みは、すでに多くのスポーツ現場や専門施設で行われているよ。
注射して安静……は絶対にNG!

Dr Ikko
さて、手術との組み合わせと同じくらい、いや、それ以上に重要な『最後のピース』がある。なんだと思う?
最後のピース……? お金ですか?

メデ子

Dr Ikko
違うよ(笑)。リハビリテーションだ。 メデ子先生、何十万円も払って幹細胞を注射した患者さんに、『せっかくの細胞が散らないように、しばらく家でジッとしていてくださいね』なんて指導をしていないだろうね?
えっ、ダメなんですか? 大事な細胞なんだから、安静にしておいた方が……。

メデ子

Dr Ikko
大間違いだ。軟骨細胞というのは、適度な『メカニカルストレス(力学的刺激)』が加わることで初めてマトリックス(基質)を産生し、強く育つ性質を持っている。 注射だけして、大腿四頭筋はペラペラのまま、体重も落とさず、関節も動かさなかったら、せっかく入れた成長因子や幹細胞も宝の持ち腐れになってしまうんだよ。
再生医療を成功に導く「攻めのリハビリ」
じゃあ、注射の後はしっかり動かした方がいいんですね!

メデ子

Dr Ikko
もちろん、注射直後の数日間(フレアアップ期)は過度な負荷を避けるべきだが、痛みが落ち着いたら積極的にリハビリを介入させるべきだ。
攻めのリハビリ 3本柱
- 徹底した体重管理:膝への負担を減らす基本中の基本。ここから逃げてはいけない。
- 筋力トレーニング:大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋群の強化。筋肉という『天然のサポーター』を作り上げる。
- 可動域(ROM)訓練と歩行指導:拘縮を防ぎ、正しい歩容(正しいアライメントでの荷重)を身体に覚え込ませる。

Dr Ikko
我々医師は、注射器を置いて終わりじゃない。理学療法士(PT)と連携して、この『攻めのリハビリ』をやり遂げる仕組みを作ることが、再生医療の有効率を70%から80%、90%へと引き上げる唯一の道なんだ。
連載の終わりに:若き整形外科医たちへ
注射の技術や細胞の種類だけじゃなくて、力学的な診断力とリハビリの重要性……整形外科医としての総合力が試されるんですね。

メデ子

Dr Ikko
そういうことだ。メデ子先生には再生医療の『光』と『影』の両方を見てもらった。 PRPも幹細胞も、決して魔法の薬ではない。しかし、適応を正しく見極め、限界を理解し、手術やリハビリと見事に融合させることができれば、患者さんの痛みを和らげ、人生の質(QOL)を劇的に向上させる素晴らしい武器になる。
はい! Ikko先生、ご指導ありがとうございました。 これからは『ただ注射を打つ医者』ではなく、患者さんの膝の全体像を診て、最適な選択肢を提示できる『真の膝専門医』を目指します!

メデ子

Dr Ikko
その意気だ。メデ子先生のこれからの活躍に期待しているよ。
あとがき
皆様、これまで「再生医療(PRP)の適切な導入と患者様のための治療」に関する連載を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
この連載を通じて、私達が何よりも伝えたかったのは、「患者様が安心して、本当に納得できる治療を受けられる環境を作りたい」ということです。ここで私達のこの想いに共感しバックアップしてくださったパートナー企業を紹介させてください。
「患者様第一の安全で適切な再生医療を普及させる」という理念において私達と一致し、並走してくれた存在です。連載はここで一区切りとなりますが、正しい再生医療の未来を支えるパートナーの活動を、ぜひ皆様にも知っていただければ幸いです。
本連載の内容をバックアップしてくださったパートナー企業のご紹介
パートナー企業のご紹介を見る(完)