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    脂肪幹細胞治療の実際:その日に打つ「SVF」と、増やして打つ「培養ASC」

    〜Dr.Ikko & メデ子の膝再生医療マスター講座〜
    Medeco 編集部
    Dr Ikko
    Dr Ikko
    膝関節専門の指導医。再生医療の「細胞の質と量」には特にこだわりがあり、それぞれの治療法の強みと弱みを冷静に分析する。
    メデ子先生
    メデ子 先生
    整形外科専攻医。前回「脂肪由来の幹細胞(ASC)が主役」と学んだが、採取した脂肪をどうやって膝に入れるのか、まだイメージが湧いていない。

    整形外科医が脂肪を採る日

    (手術室の手洗い場にて)
    Ikko先生、今日の午後は再生医療の患者さんの局麻手術が入っていますね。『脂肪採取』って書いてありましたけど、私たち整形外科医が脂肪吸引みたいなことをするんですか?
    メデ子

    メデ子

    IKKO先生

    Dr Ikko

    そうだよ。美容外科ほど大量に採るわけじゃないけれどね。 下腹部や臀部、あるいは大腿などの目立たない場所に数ミリの小切開を加えて、そこからチュメセント液(局所麻酔薬とボスミンを混ぜた生理食塩水)をしっかり皮下脂肪層に浸潤させる。そして専用のシリンジで、大体10〜20ml程度の脂肪組織を陰圧で吸引、または小切開から直接切除して採取するんだ。
    なるほど、それくらいの量なら局所麻酔で日帰りで十分できそうですね! で、その採った脂肪をそのまま膝にチュッと注射するんですか?
    メデ子

    メデ子

    IKKO先生

    Dr Ikko

    いやいや、そのまま入れたら膝の中で脂肪が壊死して大炎症が起きるよ(笑)。 採った脂肪組織から『幹細胞』だけを取り出すプロセスが必要なんだ。そして、その取り出し方には大きく分けて2つのルートがある。これが今日の本題だ。

    その日に完結する「SVF療法」とは?

    IKKO先生

    Dr Ikko

    まず1つ目のルートが『SVF(間質血管細胞群)療法』だ。 採った脂肪組織を、特殊な酵素で溶かしたり、物理的にフィルターで濾過したりして、不要な脂肪細胞(アディポサイト)を取り除く。そうして残った細胞の集まりをSVF(Stromal Vascular Fraction)と呼ぶんだ。
    エスブイエフ……。それって、幹細胞のことですか?
    メデ子

    メデ子

    IKKO先生

    Dr Ikko

    正確には『幹細胞を含む、いろんな細胞のミックス』だね。 SVFの中には、お目当ての脂肪由来幹細胞(ASC)のほかに、血管内皮細胞、周皮細胞(ペリサイト)、マクロファージ、T細胞などが含まれている。
    純粋な幹細胞だけじゃないんですね。
    メデ子

    メデ子

    IKKO先生

    Dr Ikko

    そう。でも、この『いろんな細胞が混ざっていること』が逆に良い方に働くという報告も多いんだ。細胞同士が相互作用して、強力な抗炎症作用や血管新生を促すと言われている。
    SVFのメリット・デメリット
    • メリット:採血(脂肪採取)から細胞の分離、そして膝への注射までを『その日のうち(1-Day)』に完結できる。患者さんは1回の来院で済む。
    • デメリット:採取した脂肪の量に依存するため、1回に投与できる幹細胞の『絶対数』はどうしても少なめになる。

    数千万個まで増やす「培養ASC療法」の威力

    もう1つのルートは何ですか?
    メデ子

    メデ子

    IKKO先生

    Dr Ikko

    それが『培養ASC療法』だ。 さっき抽出したSVFの中から、さらに純粋な間葉系幹細胞(ASC)だけを取り出し、厚労省の認可を受けた細胞培養加工施設(CPC)のクリーンルームで、約3〜4週間かけて大事に培養して増やすんだよ。
    培養……! それって、どれくらい増えるんですか?
    メデ子

    メデ子

    IKKO先生

    Dr Ikko

    元の数から比べると何千倍だね。最終的には数千万個から、多いと1億個以上のピカピカの幹細胞が出来上がる。
    1億個!? それはなんだか、圧倒的なパワーを感じます!
    メデ子

    メデ子

    IKKO先生

    Dr Ikko

    これが最大の強みだ。PRPやSVF療法で効果が出にくかった進行期のOA(K-L Grade IIIなど)に対しても、これだけ大量の幹細胞を投与すれば、強力なパラクライン効果(抗炎症・環境改善)が長期間持続することが期待できる。
    培養ASCのメリット・デメリット
    • メリット:圧倒的な細胞数により、より高い治療効果と効果の持続(数年単位)が期待できる。
    • デメリット:培養にコストと時間がかかるため、非常に高額(自由診療で数十万〜百万円超)になる。また、脂肪採取の日と、注射の日(約1ヶ月後)の最低2回、来院が必要になる。

    目の前の患者さんにどちらを提案するべきか

    うーん……手軽で早いSVFか、高額だけど細胞数が多い培養ASCか。どちらを勧めるべきか迷いますね。
    メデ子

    メデ子

    IKKO先生

    Dr Ikko

    そこは我々専門医が、患者さんの『膝の状態』と『社会的背景(費用や通院の手間)』を総合的に判断して提案する部分だね。例えば、
    SVF vs 培養ASCの使い分け
    • 仕事が忙しくて何度も通院できない、あるいは費用を少しでも抑えたい、軽度〜中等度のOA患者さんなら『SVF』。
    • 過去にPRPをやったけれど痛みが再発した、どうしても手術はしたくないが変形が進んでいる中等度〜高度(一部)のOA患者さんで、費用負担に納得されているなら『培養ASC』。
    IKKO先生

    Dr Ikko

    このように、治療の選択肢(オプション)を提示して、一緒に選んでいく姿勢が大事なんだよ。

    採取部位の合併症リスクも忘れずに

    よし、なんだか説明の引き出しが増えました! 脂肪採取の局所麻酔の手技、しっかり見学させてください。
    メデ子

    メデ子

    IKKO先生

    Dr Ikko

    あぁ、頼むよ。それとメデ子先生、脂肪を採る以上、我々は『採取部位の合併症リスク』も患者さんに説明する義務があるからね。
    合併症ですか? お腹を切るから、感染とか出血ですか?
    メデ子

    メデ子

    IKKO先生

    Dr Ikko

    その通り。低侵襲とはいえ、以下のようなリスクはゼロではない。
    脂肪採取部位の合併症リスク
    • 皮下血腫や内出血(アザ)
    • 創部感染
    • 局所麻酔薬(リドカイン)による中毒やアレルギー
    • 採取部の引きつれ感や凸凹(特に大量に採った場合)
    IKKO先生

    Dr Ikko

    膝ばかりに気を取られて、お腹や太ももの傷で患者さんに不満を持たれたら本末転倒だからね。インフォームド・コンセントは膝と採取部の両方についてしっかり行うこと。

    まとめと次回予告

    今日のまとめです!
    メデ子

    メデ子

    まとめ
    • 脂肪幹細胞治療には『SVF』と『培養ASC』の2ルートがある。
    • SVF:その日に完結。いろんな細胞のミックス。
    • 培養ASC:約1ヶ月かけて数千万個に増やす。超強力だが高額。
    • 患者さんの病期やニーズに合わせて使い分け、採取部の合併症説明も怠らない。
    IKKO先生

    Dr Ikko

    完璧だ。これでPRPから幹細胞まで、治療の『中身』については一通り語れるようになったね。 でも、再生医療を語る上で避けて通れないのが『法律』の壁だ。 次回Vol.5では、少し視点を変えて、我々医師が絶対に知っておくべき『再生医療新法』と『患者への説明義務』について解説しよう。
    (Vol.5へ続く)